特許庁審決を確認していたところ、興味深い案件を見つけたのでご紹介します。
まず出願商標の概要は以下の通り。
商標:Fintan(標準文字)
出願番号:商願2018-23724
指定商品・役務:第9類「電子計算機,電子計算機用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードされるものを含む)」他
上記商標は商標法第4条第1項第7号を理由に拒絶されました。
いわゆる「公序良俗違反」と呼ばれる拒絶理由です。
少し長いですが拒絶理由中の主要な部分を引用します(下線部は筆者がひきました。)。
『「フィンたん」の文字は、別掲に表示するとおり、2012年7月に、駐日フィンランド大使館のソーシャルネットワークサービス、Twitterの大使館公式アカウントとして登場したキャラクターの名称を表すものです。 近時、外国の在日大使館や政府機関は、それぞれの国の知名度アップのためにキャラクターの活用を図るケースが増えているところ、当該フィンランド大使館のTwitterアカウントは、現在約13万人のフォロワー数を誇り、世界中の全大使館の中でも10番目にフォロワー数の多いアカウントであり、Twitterリストに最も多く掲載されている大使館アカウントとなっており、フィンランドの知名度アップに十分貢献しているものといえます。 このような事情を勘案しますと、本願商標は、駐日フィンランド大使館のキャラクターとして広く知られている「フィンたん」の文字を、単に欧文字で表記したものと認められ、これを一私人である出願人が営利目的において使用することは、駐日フィンランド大使館の広報活動に便乗することとなり、ひいては、フィンランドの権威と尊厳とを損ねるおそれがありますから、出願人が、本願商標を採択使用することは国際信義に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあります。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当します。」
第4条第1項第7号は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は登録できないと定めています。少し漠然とした記載ですが、審査基準によると以下のような商標が該当します。端的に言うと「常識と照らして商標登録することにふさわしくない」ものが該当する、という言い方もできそうです。
・商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字等
・他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
・特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
・当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。
本件では下線を引いた「国際審議に反する場合」に該当するとして審査で拒絶されました。
つまり出願商標「Fintan」が駐日フィンランド大使館のキャラクターとして広く知られている「フィンたん」の欧文字表記に過ぎず、これを一私人が独占し営利目的で使用することはフィンランドの権威と尊厳とを損ねるおそれがありけしからん!という理由です。
私はこの「フィンたん」というキャラクターを知らなかったので早速確認してみました↓↓
https://finlandabroad.fi/web/jpn/ja-fintan
(フィンランド大使館のウェブサイト)
すみません。ちょっと想像と違ってました。。。
勝手にムーミン的なキャラクターを想像してしまったんですが(おい)。ライオンの着ぐるみを着た金髪慧眼の7歳の男の子という設定らしいです。ちなみに駐日フィンランド大使館のTwitterフォロワーは令和3年3月現在で約16万人。インフルエンサーですね。
「フィンたん」は「駐日フィンランド大使館のキャラクター」なので、日本では一定程度有名であってもフィンランド本国の方たちにとっては「フィンタン?なにそれ?」って感じだったのかもしれません。そのあたりが考慮されての審決かなと思いました。
しかしですね。自分がこの商標を出願前に調査したとして、審査で公序良俗違反に該当する可能性を指摘したかというと、正直言ってあまり自信ないですね。「駐日フィンランド大使館のキャラクター名称が御社商標の障害になるかもしれません」とお話したら依頼人様もリアクションをとるのが難しいのではないかと。。。余計な心配ですが。。。
以上、公序良俗違反に該当するか否かの事前判断は難しいな、というお話でした。
これからは駐日大使館のキャラクターにも目を光らせて調査します!
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