蔵元:竹田酒造店(上越市)竹田春毅さん
杜氏:ラグーンブリュワリー(新潟市)尾﨑雅博さん
酒屋:中善酒店(新潟市)中川美和さん
酒蔵を経営する蔵元、杜氏をはじめとする造り手、そしてその酒を売る酒屋。
1つの「お題」についてそれぞれが思いをつづり、次号の執筆者を指名していくリレーエッセイ。本誌の連載を引き続きサイトでつないでいきます。
今回の「お題」は『新潟発R』創刊号「米の力=新潟の力」で特集した「おにぎり」。いまや世界食といっても過言ではない「おにぎり」の、3つのストーリーをご紹介。
蔵元
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米作り、酒造りで育む郷土愛
竹田酒造店(上越市)専務取締役 竹田春毅さん
暑い季節が過ぎ去っていよいよ本格的な稲刈りの季節がやってきました。米といえば真っ先に思い浮かぶのはやはりおにぎり。もはや国民食と言っていいほどに日本人に愛されているおにぎり。多種多様な具、混ぜご飯やおこわなどバリエーションも豊富で、おにぎりが嫌いという人に今まで出会ったことがありません。かくいう私も大好きです。私の子どもたちも大好きです。
弊社の取り組みの一つとして、「米作りから酒造りまで」というプロジェクトを2022年年から始めました。地元の小学生と一緒に田植えや稲刈りをして、出来上がった米を原料にして酒を仕込みます。そしてその酒を、子どもたちが20歳になったらプレゼントするという企画です。ものづくりの素晴らしさや大変さを知ってほしいとの思いから始めました。それと同時に、地元企業としてせっかく生まれ育った地元への愛着や郷土愛を深め、将来この体験をしたことによって地元を誇りに思える大人になってほしいというのが狙いでした。
泥だらけで田植えをし、我先にと稲を刈り取り、凍える手で米を洗っていた子どもたちの笑顔を見ていると、やってよかったなと思います。印象的なこととして、稲刈りの後にみんなで昼食をとったときのこと。豚汁をこちらで用意して主食は各自用意してくださいねとお願いしました。見事に全員おにぎりでした(笑)。おにぎりと豚汁、最強の組み合わせですよね!
(プロフィール)
竹田春毅(たけだ・はるき)
1985年上越市生まれ。竹田酒造店10代目。東京農業大学卒業後、東京都の問屋で1年修業した後、家業を継ぐ。体調維持の目的でランニングを始め、2022年に地元のマラソン大会で60㎞を完走。ただ燃え尽きた感があり、次回出場するかどうかは悩み中。
次回ご指名!
猪又酒造(糸魚川市)猪又知良さん
杜氏
永く愛される〈具〉を求めて
LAGOON BREWERY(新潟市)最高技術責任者 尾﨑雅博さん
今回リレーエッセイを引き受け、「おにぎり」がテーマということで何かあるかと考えてみたが、正直あまりない。新潟に来る前、中学生、小学生の頃と思い返してみて出てきたのは、やはり母のおにぎりでした。特別凝っているとか、レパートリーが豊富だったということはなく、ただのおふくろの味というだけなのでしょうが。めちゃくちゃしょっぱい焼き鮭、ちょっと焦げた焼きたらこ、種を取って果肉だけにしてもらった梅干しが特に好きだった。
中学に入って部活動が始まると土曜練習の日もあり、給食はないので母が弁当を作ってくれていたが、月に1回くらい、無性におにぎりが食べたくなる時があった。この頃は母のおにぎりではなく、コンビニのツナマヨと明太子にハマっていた。30年前は今ほどではないにしても、それなりにおにぎりの種類があったように思う。その中で選ばれないといけない、これは大変だと今更ながら思う。
LAGOON BREWERY(ラグーンブリュワリー)ではもろみにトマト、イチゴなどの副原料を入れて(おにぎりに具を入れるのに似てるかな……と)発酵させて瓶詰めするという造り方をよくやります。これからもいろいろな“具”にチャレンジしていく……していかなければならない。その中では残るもの、1回しか造らないものが出てくるだろうが、ツナマヨおにぎりのように飽きられず永~く選んでもらえる酒をいつか造れるよう、1本1本丁寧に造っていきたいと思う。
(プロフィール)
尾崎雅博(おざき・まさひろ)
1979年東京都生まれ。高校卒業後、98年に越乃蔵酒造場(後に越後伝衛門に社名変更)に入社。2021年LAGOON BREWERYに入社、四季醸造、特に暑い季節の造りに苦労している。
次回ご指名!
越後酒造場(新潟市)西島 徹さん
酒屋
おにぎり屋から新米・女店主へ
中善酒店(新潟市)店主 中川美和さん
夏を過ぎると米どころ新潟に新米の季節がやってきます。米のおいしさをストレートに味わえるのが「おにぎり」。今回こちらのテーマをいただき、私は学生時代を思い出しました。
今や酒屋である私の人生、初めてのアルバイトはおむすび屋でした。見よう見まねから始まるおにぎりを握る作業は、手の皮がまだ薄い当時の私には、熱いのを我慢する記憶が鮮明に残っています。大学生で、住んでいたのは埼玉。駅前にある小さなおむすび屋で、仕事終わりのサラリーマンや買い物帰りの方、おじいちゃんおばあちゃんに、おなかをすかせた中高生など、幅広いお客さまと話をしながら大きいおむすび(180gくらい)を握っていました。
あっという間に時は過ぎ今30代半ばとなり、地元新潟で実家の店を継いで3代目酒屋女店主になろうとしているところです。おむすび屋と同じく、酒屋に来られるお客さまは20代から80代後半の大先輩まで、人生初めて飲む酒の相談を受けたり、金の達人を持っていて知識を与えてくれる方など、毎日楽しくいろいろな経験をさせていただいてます。
こう振り返ってみると、おむすび屋も酒屋も同じで、さまざまな話を聞いたり話したり、人と出会ったり、知って笑って楽しんでもらえる寄合所のような場所に近づいているような感覚があります。同じ米でできている「お酒」と「おむすび(おにぎり)」は、人と人をむすんでくれる、人生を華やかにする存在なのだと感じます。酒をより身近に、より楽しく、より面白く知ってもらえるような酒屋になるため、新米・酒屋女店主はこれからも日々精進してまいります。
(プロフィール)
中川美和(なかがわ・みわ)
1989年新潟市生まれ。中善酒店の次期3代目・酒屋女店主。酒屋歴3年目。前職は作業療法士、趣味は居酒屋巡りと釣りと畑とDIY。釣った魚を裁いて酒と味わいSNSに投稿するのが日課。
次回ご指名!
酒のよしや(新潟市)神田久美子さん
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