- 『新潟発R2022夏・19号 佐渡のDAICHI 大地のMEGUMI』より
- 取材・文=髙橋真理子 撮影=スタジオママクワンカ
漁師町の伝統の技と味、焼きあご
佐渡では古くから、荒れ地や山畑を利用してそばを栽培していた。島のそばの特徴の一つが、つゆに焼きアゴのだしを使うことだ。
アゴとはトビウオのこと。トビウオは南方の海から対馬海流に乗って、6月から8月中旬に佐渡沿岸域を通る。そのときに定置網で漁獲する。漁師町である真野地区の豊田集落は焼きアゴ作りが盛んで、かつては10 軒ほどが作っていたが、現在は1軒に。焼きアゴを作る本間勘太郎さんを訪ねた。
「今日は大漁だった」と、本間さんがキラキラ輝くトビウオを見せてくれた。
佐渡でとれるトビウオには、腹部が角張っていて「カクトビ」と呼ばれるツクシトビウオと、丸みがあり「マルトビ」と呼ばれるホソトビウオがあり、焼きアゴにはマルトビを使う。中学卒業後、漁師をしていた本間さんが焼きアゴ作りを始めたのは40 年ほど前。祖母のミヘさんに教えてもらい、ミヘさんが亡くなる2009年まで2 人で作っていた。
「10 数年前に閉じましたが、豊田には昔から2 軒のそば屋があり、そこのつゆに使うため、焼きアゴを作り始めたそうです」とルーツを教えてくれた。焼きアゴ作りはミヘさんが嫁いだ1940 年ころから始まり、徐々にアゴだしへの人気が出てきたという。
鮮度が落ちないよう、作業は深夜から行う。竹串に刺し、「べーた(薪)で焼くのが特徴」と本間さん。
冷凍ものを使用するメーカーもあるというが、本間さんは生にこだわる。「冷凍すると味が落ちる」。漁師の経験からそれが分かる。イワシやカツオの煮干しに比べて、焼き干しは脂分が少なくさっぱりしている。だからそばに合う。昨年は不漁で焼きアゴを作ることができなかった。「今年こそは」と勘太郎さんは豊漁に期待する。
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残していきたい島のそば文化
大正の終わりから昭和の食生活を採録した『聞き書 新潟の食事』(農文協)の「佐渡の食」ページには、「りりしい(立派な)嫁は上手にそば切りをつくれるが、すぐ切れてしまうようなものをつくると、しょうたれ(不精者)の嫁といわれる」という手厳しい説明が掲載されている。確かに、今まで佐渡でそばの取材をすると必ず「この人がそば打ち名人なのよ」と周囲から尊敬される名人のお母さんがいた。その見事な技に感動したものだ。
切ったそばを「そば切り」と呼び、普通はゆでた後、水にさらして冷やすが、ゆでたものを直接丼にとってだしをかけて食べる「ゆであげ」という食べ方もあるそうだ。
真野地区には、そばをドジョウくらいの太さに切ってゆでたものに塩あんをかけて食べる「そばどじょう」が、赤泊地区には、大根の千切りを炒ってゴマで和えたものをソバにのせる「せんぞうぼう(そば)」がある。
どちらも現在は食べる機会は少なくなっているが、大切な郷土料理として、次の世代へ受け継がれてほしい。
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