・『新潟発R』2021夏・16号 佐渡生まれ、佐渡育ち「島のいっぴん」より
・取材・文=髙橋真理子 撮影=スタジオママクワンカ
1000m級の山や広大な平野、里山と川、湖もある、〈完全無欠〉な自然を誇る島、佐渡。この自然の恵みを大切に、地酒を醸す5つの酒蔵。そこで誕生する「島のいっぴん」を、発Rでは「島酒」と名付け、3蔵の物語を紹介する。
金山の盛衰により酒造りが盛んに
1961(昭和36)年発行の『新潟懸酒造史』によれば、佐渡には14の酒蔵があった。さらにさかのぼると、江戸時代末には国中に250余りの酒蔵があった(『 佐渡酒誌 』)というから驚きだ 。佐渡酒造史に詳しい尾畑酒造社長の平島健さんは「 ゴールドラッシュで人口が急増して酒の需要が増え 、米商人が酒造業を始めました 。開墾が進み米の生産量は増加しましたが 、金の産出属が減って人口が減少し 、余った米で酒を造る地王酒屋が増えたようです 。現在はトキとの共生により 、新たなステージを迎えています 」と説明する 。 島酒の今を追った。
全量佐渡産米を実現した加藤酒造店では、自然栽培の越淡麗で「純米大吟醸 上弦の月」を、無農薬栽培のたかね錦で「純米 拓」を醸す。
米を栽培するのは蔵人の佐々木邦基さんと7人の契約農家。23年前に佐々木さんが酒造りのために来島した時期がトキの放鳥と重なり、生き物と共存する米作りとその米で酒を造ろうと、社長(当時)の加藤健さんに提案。
以前、写真家の故天野尚さんが講演で「今の田んぼには生き物がいない、変だ」と言っていたことが忘れられなかった加藤社長は、「自然栽培が田んぼの現状を変えてくれる」と期待し、生産者への声がけに奔走する佐々木さんを応援することを決断。「酒を通して自然栽培を発信していこう」と、生産者への栽培奨励金など経済的なバックアップを続けている。
今でこそ地元ファンが多い「金鶴」だが、1993年に蔵を移転するまでは水が硬く、「味に納得がいかなかった」と加藤社長。将来ステップアップするために、反対する父を粘り強く説得し、金北山の伏流水が豊富に湧く、廃業した「勇駒」の酒蔵跡地へ移転。地元の人はこの地の水がよいことを知っていて、じわじわと飲む人が増え、「金鶴」のファンになっていった。
「金鶴」の酒造りを仕切るのは、杜氏を務める坂下肇才さん。「島の人にとっても、地元の米で造った酒を飲むのはうれしいですよね」と、全量佐渡産米を誇りに現在の味のブラッシュアップに励む。
5年前に実家に戻った専務(当時)の加藤一郎さんは「ファンとのつながりを深めながら、派手さはなくても、中身が充実した酒を追求したい」と語る。
「質実な酒」への挑戦は続く。
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