ブランド?ブランディング?なんか分かりにくい!!!
ブランディングコンサルタントとして、初めてお客様からフィーを戴いて以来、四半世紀以上の年月が経ちました。ちなみにブランディングに関わって最初のシゴト(?)が「日本で第三位の広告会社(つまり自分が属していた会社だ)の経営者に『ブランドとは何か』をレクチャーする」だった(たぶん1995年くらい)ことを考えると、多くの人が普通に、日常的に「ブランディング」という言葉を使う日が来るなんて感慨無量です。
・・・とは言え、それだけの時間が経ったのですから、ブランディングが指し示す意味や行為が変化していくのは当たり前の事。そういった時間の流れを考えていないので、話が混乱するのです。
そういう意味では日本の「ブランディング」の歴史(註1)とともに歩いてきた私が、一番解説者として適任では・・。と言うことで、説明させていただきます。
※なお、この投稿は『ブランディングの誤解』という日経Trendのweb記事に触発されて書きましたので、そちらの記事もちらっと目を通して戴けると幸いです。(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00778/00003/?fbclid=IwAR2tDkqruTWqUa1Ki8OlkDIgVXJZJrGiVWZuHuwhKFTx7nbLOjRL4sxQnUk)
広告
ブランドとは何か?
まず「ブランドとは何か?」という問いに答えることから始めましょう。
ブランドとは「特別な名前」です。
以上、終わり!では、不親切ですが、
本当に「特別な名前」なんです。
もう少し言うと「固有の識別子」です。
まず「特別」や「固有」というのは、「商標として保護され、既に登録されているものは使用できない」ということを示しています。
人の名前だったら、同姓同名もありますよね。
ところが、ブランド(商標)の世界には同姓同名がありません。ですから、その名前は排他的であり、だから「特別」「固有」なんです。
で、「識別子」の方です。
昔は商標も「読み」と「読みの表記」くらいだったんですね。
ところがそれから「ロゴ」、「形」、「色」、「音」、「音声」、「キャラクター」そして「立体物」など増えてきました。これらは厳密には「名前」とは言えないので、何かを識別する単位として識別子と言う訳です。
ですから、堅苦しく言えば「固有の識別子」であり、やわらかく言えば「特別な名前」なのです。
ね、難しいこと、何もないでしょ。
※なお、日本の商標法では、識別子の中に「企業のキャッチフレーズ」や「広告」は含まれていません。でも、それで特定の企業や商品を識別する人もいますので、この辺りも「特別な名前」に含めて、これからの論を進めます。
良い名前を付ける。それがブランドの基本。
だから、特別な名前を付ける際に「良い名前」を選んであげるのは、ブランドの基本であり、第一歩です。
――先進性のある広告をつくったり、現代的なパッケージデザインに刷新したりすることで売り上げが上がるという風に、ブランディングが誤解されている背景をどう見ていますか。前出『「ブランディング」の誤解 第4回/全7回』
これは編集記者の発言ですが、少なくともブランドの視点に立てば、広告やパッケージなどの「特別な名前に良い名前を付ける」ことはいちばん大事なことです。では、なぜ「ブランディングが誤解されている」となるのでしょうか?それは、この編集記者が「ブランド」と「ブランディング」をちゃんと使い分けられていないからです。
既に述べたように、ブランドとは「特別な名前」であり、それに「良い名前」を選ぶことはブランドでやるべき範疇です。やるべき範疇と言うより、最優先課題です。
では「ブランディング」とは何なのでしょうか?
ブランディングとは何か?
ブランドは名詞です(動詞ではありません)。そして動詞でも無いものに-ing(現在進行形)を付けたものが「ブランディング」です。つまり造語です。造語ですから電通さんは商標登録できたのですね。
さて、これに似た成り立ちの言葉に「マーケティング」があります。
「マーケット」という名詞に-ing(現在進行形)を足したものです。
さて、「マーケティングって何?」という問いに対して、よく聞く答えに「売れる仕組みから、売れ続ける仕組みに変える」っていうのがあります。
なんだろう?この何か言っているようで、何言っているか分からない感・・・。正直、こういう人をみると「分かったようで分かっていない」、「ああ、この人は自分の頭で考えず、引用で生きている人なんだなあ」と思います。
素直に考えれば、マーケットを現在進行形にする、
つまり、「市場を産み出したり、活性化する」ってことですよ。
セールスの時代(正確にはマニュファクチャリングの時代)とマーケティングの時代の差は、「製品の創造」から「市場の創造」に変わったことです。
ブランディングとは、ブランドを現在進行形にすること。
そう考えれば、ブランディングとはブランドを現在進行形に、すなわちブランドを生み出したり、活性化する「ブランドを特別な価値あるものとして成り立たせるものを明らかにする」ことがブランディングです。
その商品でしか味わえない「味」や「健康への効用」など、強い便益とその商品にしかない独自性があれば、顧客は自然とそれを思い出して、誰にも言われなくても選んでくれます。前出『「ブランディング」の誤解 第4回/全7回』
前出の記事で「ブランディングの誤解」について、西口氏が「味や健康への効用」と答えているのは、まさに「ブランディング」すなわち「ブランドを価値あるものとして成り立たせるもの」です。
ブランディングの誤解があるのではなく、編集記者は「ブランド」の話を、西口氏は「ブランディング」の話をしているのですね。
はい、これで誤解の根本原因の解説は終わり!
と言いたいところですが、実はこの「西口氏の言うブランディングにも、まだ誤解が残っている」というのが、ここからの私の主張です。
ブランディングも進化している。
先程、「ブランド」が変化している話をしました。
最初は「純粋に名前」だったものが、他の識別子(ロゴや音や立体物や・・)へと変化していましたね。そうブランドは時代に沿って、進化しているわけです。
同じように「ブランディング」も変化しています。
ただし、ブランドの変化が「本質は変わらず、その範囲が拡がったタイプの進化」なのに対して、ブランディングの変化は「本質が変化していくタイプの進化」なのです。
ブランディング1.0=「品質の代名詞」=企業が主役
まず、元々の始まりのブランディングから考えましょう。
これはコトラーの唱えるマーケティング1.0に対応していると言えます。
すなわち「価値の源泉は製品」にあり、「良い品質が良いブランドを成り立たせている」というもの。
西口氏が仰っているブランディングとは「ブランディング1.0」すなわち「ブランド=品質の代名詞」という考え方なんですね。
コトラーも言っているように、「8割方の企業はマーケティング1.0の段階」です。西口氏の経歴を見ても「消費財」の「メーカー」としての立場からです。
ただ、ブランドロジスティクス有限会社、So-netを起ち上げ、ポストペットを起ち上げ、aiboのマーケティングを起ち上げた小出ユリ子、そして大学を始めとした教育ブランディングを主なフィールドとする小出正三の会社としては、「この考えは古い」と思うわけです。
何故なら・・・
ブランドの本質とは商品・サービスの購入・利用が習慣化され、顧客の生活に欠かせないものになり、意識させずとも手に取ってしまう、使ってしまう状態を指します。前出『「ブランディング」の誤解 第4回/全7回』
・・・では、ダメなわけです。
「意識せず」じゃない、めっちゃくちゃ意識してほしい!
四六時中、私(ブランド)のことだけ考えて欲しい。そして私に意識して会いに来て欲しい。何なら、他の人にも連れてきてほしい。
ブランドは今、めっちゃくちゃ自分の事を意識して、愛してほしいのです。
なので、ブランディング1.0の先は西口氏ではなく、私たちが案内しましょう。
ブランディング2.0=「差別化の象徴」=顧客が主役
西口氏は「パンパース」を手がけられていたそうです。
パンパースは「購入者の目に映るブランド」です。その際に「品質の代名詞」は必要です。でも「パンパースを履いているよ」って他人にひけらかすものでは無いですね。
でも、グッチやヴィトンはどうです?
あ!あの人、グッチやヴィトンを持っている!って他の人に気付いて欲しいですよね。
そして、ああ、グッチやヴィトンを持っている私ってイケてる!って自分自身を褒めてあげたいですよね。
そして、それはいわゆるハイブランドだけの現象ではありません。
たとえば、ユニクロ。
ユニクロ、安いですね。だからグッチやヴィトンみたいな「見て欲しい」ではないのかな・・・。
でも、ユニクロのユーザーには一定数の「ユニクロを積極的に選んで着ており、それを自分の主張(服に金かけるなんてダサイよね)と絡めたい人」は要るはずです。
それを分かっているから、ユニクロはCMで「有名人と一般人を同時に主役にした」んですね。
この二つの例は、同じコインの裏表です。
グッチやヴィトンの様に「製品の原価では説明できないくらい高い」ものがある一方で、ユニクロのように「製品は安いのに異様にプライドは高い」ものがある。
そう、これは「差別化」なのです。
ただし、これは記事の中で『ブランドの差別化は「競合との比較」にあらず』という企業が主役の「製品の差別化」ではなく、「顧客の差別化」つまり顧客が主役の「ライフスタイルの差別化」なのです!(ライフスタイルはカタカナ語ですけど、これくらいは許してね)
この差別化を、製品軸ではなく、顧客軸(ライフスタイル軸)に置く方向性は1990年代に起こった流れです。"Japan as No.1"の後です。製品競争に敗れたからこそ、米国ではこの新しい流れを掴み、ブランディングによって成長したのです。日本企業の米国企業に対する敗北をブランディング1.0がブランディング2.0に敗れた(付加価値競争に勝てなかった)と考える視点も大切ですね。
ブランド2.0とは、「製品(1.0)を象徴の道具として、顧客自身のライフスタイルを他の人のライフスタイルと差別化する」ことなのです。
ブランド1.0の主役が「製品(の品質)」だったのに対して、ブランド2.0の主役は「顧客(のライフスタイル)」なのです。
ブランド2.0とは、「製品(1.0)を象徴の道具として、顧客自身のライフスタイルを他の人のライフスタイルと差別化する」ことなのです。
ブランド1.0の主役が「製品(の品質)」だったのに対して、ブランド2.0の主役は「顧客(のライフスタイル)」なのです。
ブランディング3.0は「共創(コミュニティ)の旗印」=共同体が主役
ブランディング3.0は、1.0、2.0とどう違うのか。
その代表は
Jリーグ
です。
若い方はご存じないかも知れませんが、Jリーグの前の日本サッカーリーグ。今年の開幕戦であった横浜Fマリノスvs川崎フロンターレ(2万人超の等々力競技場が満席)に似たような当時の大人気クラブ、日産自動車vs読売クラブの試合の入場者はわずか3,000人しかいませんでした。
なにより、この30年間でJリーグは10チームから60チームまで増えています。日本中にJクラブが無い県を探すのが難しいほどです。
では、この成功はなんでしょうか?
それは、いわゆるエンターテインメント(ライブ)消費ではありません。
映画や音楽のような、エンターテインメントの対価としてビジネスが成功しているとは言いがたい。そうではなくて(特に地方では)、サッカーは「消費財」ではなく、「顧客がチームととも地方文化をつくる共同参加事業」なのです。
そう、顧客は消費者ではありません。
顧客は消費者では無く参加者であり、共に価値を創造する共創者なのです。
もちろん、顧客だけではなく、スポンサーも、スタジアムでキッチンカーを出す店主も、経済的なメリットだけでは無く、共に価値をつくることに参加しているという意識があるはずです。
マーケティングの世界では、顧客も、競合や協力者も、すべて「客体」として、すなわち「主体が操作する操作対象」として考えています。
しかしブランディング3.0の世界では、顧客や協力者は「客体」ではなく「共同主体」なのです。
さきほど、「音楽はエンターテインメント消費」と言いましたが、初期のAKB48も、顧客は消費者ではなく共同主体で、一緒にAKB48という夢をつくっていたように思います。
現代の大ヒットは、(ブランディング1.0という競争ではなく)ブランディング3.0という共創が背景にあるのです。
ブランディング1.0、2.0の主体は企業(製品)。
ブランディング3.0では顧客を含めて「共同主体」。
ここまでブランディングの進化の歴史を見てきました。
ここで注目してほしいのは、小見出しにもしている「主体の変化」です。
ブランディング1.0と2.0の差は、勝負の土俵が「企業のバリューチェーンの中」か、「顧客の精神世界の中」か、の違いでした。
しかし、「主体が企業(製品)」であることは変わりませんでした。
しかし、ブランド3.0では、勝負の土俵では無く、主体が変わりました。
言ってみれば
「円(製品)の前に、縁をつくれ」
「製品をつくる以上に、関係をつくれ」
これは大きな変化です。
今まで、ブランドの変化、ブランディング戦略の変化を追ってきました。
そしてブランディングの変化は、戦略の変化に繋がるのです。
戦略と戦術のレベルの違い。
ブランディングは文字通り「戦略」になった。
よく「ブランディング戦略」という言葉を使います。
これはブランドを成り立たせるものを、統合的・大局的に整理し、活用するという意味です。
ブランディング「戦略」は、大局的に見ればマーケティングの一「戦術」に過ぎない。
しかし、それはブランディングを主役にした視点です。
より大きな視点、すなわちマーケティングからみれば、マーケティング「戦略」の一手段として、ブランディング「戦術」があるのです。
課長が課内で威張っていても、部長がくれば頭が上がらないのと一緒ですね。その部長も社長(企業戦略)が来れば頭が上がりません。
ブランディング1.0は、マーケティング戦略である4Pの一つのプロダクト「戦術」に属します。
同じくブランディング2.0は、マーケティング戦略である4Pの一つのプロモーション「戦術」に属します。
ブランディング1.0も、2.0も、マーケティング戦略の一戦術なのです。
客体(操作対象)に対する技術なのです。
主体はあくまで製品であり企業です。
ブランディング3.0は「共同主体」に関わる戦略
ブランディング3.0は違います。
これは「主体が共同主体になる」という戦略レベルの変更です。
パタゴニア鎌倉店(昔のパタゴニア日本支社)のショーウインドの装飾には『皆様には衣類の製造方法を変える力があります』と書かれています。
ここでは従来の「メーカー/消費者」という区分けがないのです。
メーカーと顧客が一緒になって製造方法(社会システム)を変えていこう、と言っているのです。
これこそが「パーパス」です。(パーパスは「存在意義」です。だけど、今のビジネス界では「パーパス・ブーム」なので、その盛り上がりに乗るために、あえてパーパスのママにしておきますね)
パーパスとしてのブランディング3.0によって
- 「プロダクツ」が、シーズ発想から、顧客の人生価値発想に変わります。
- 「プレイス」が、人任せ(デパートや量販店)から、デザインされた出会いの場(コンセプトショップ)に変わります。
- 「プロモーション」が、広告から、顧客の推奨(SNS)に変わります。
- 「プライス」が、競争とブランドスイッチから、非競争・ライフタイムヴァリューに変わります。
つまりブランディング3.0によって、4P=マーケティング戦略が変わるのです。この変化は極めて重要です。
何故なら、この時点で「マーケティング戦略の下位戦術だったブランディング」が「マーケティング戦術を統合する上位戦略」に変わるのです。
ブランディングがパーパスと結びつくとき、それは企業戦略と同等のものになる。
そして、ブランディング3.0はパーパスと結びつきます。
ブランディング3.0で、なぜブランディング戦術(マーケティング戦略の下位)からブランディング戦略(マーケティング戦術の上位)への大逆転が起きたのか?それは、ブランディング3.0という「価値創造の共創コミュニティが生まれたからです。
これらの主体は、従来のような資本関係や取引関係と言った「経済関係」で結ばれている訳ではありません。
そうではなく「趣旨に賛同し、応援する」と言った「盟友関係」で成り立つ(特に顧客を共同主体と考えた時)ものなのです。
その場合、独立した盟友を一つの方向にむすびつけるものが「パーパス」なのです。
人を引っ張るには何か犠牲が伴うものです。
時には自社の(目先に)利益を犠牲にしてもパーパスに準じる。
だからこそ、価値創造コミュニティが生まれるし、その旗印こそブランディング3.0なのです。
まとめ
ブランドあるいはブランディングが分かりにくいのは、それぞれの概念が拡張しているのに、それを時系列的に追いかけ「分割して考えていない」からです。それぞれを分割して考えれば、決して難しいことではありません。
本稿では、3つの時系列変化を追いました。
- ブランド(名前)の量的変化
- ブランディング(価値)の質的変化
- 戦略/戦術(主体)の構造的変化
このように変化を追いかけると、「今、自分は何を問題にしているのか」が分かり、ブランディングを自分ごとに引き寄せることができると思います。
本稿が皆さんのお役に立てることを期待しています。
広告